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ノミ・ソング(The Nomi Song, He came from outer space to save the human race) [DVDやら映画やら]

クラウス・ノミさんのドキュメンタリー。情報があまりに少なかった病気ゆえ、関係者のほとんどが彼を看取っていない。後になってそのことを後悔する人々。彼のし好を理解できない人たち。ドキュメンタリーの目玉は、なんといっても人形みたいな衣装のデビッド・ボウイさんと共演したテレビ番組でのライブ映像。よくボウイさんが収録を許可したなあと思う。それまでもパフォーマンスを行ってきたノミさんの方向性が決まったライブであって、これをきっかけにあの独特な三角形の衣装が出来上がった。ライブでは "The man who sold the world" で B.C.Rich の Bitch ダブルネック と Eagle のベースが、"TVC 15" では Alembic ギターが登場する。面白いのは、パフォーマンスを始めたころは口パクだと思っていた人が多いこと。エルビスの代わりにマリア・カラスを聴かされたという、オペラな歌唱があまりに美しかったのだろう。ビニールをまとったり宇宙的な見た目ながら口から発せられる歌は透明で美しい。ノミさんの ”N” を模したステージセットが秀逸。縦のボーダーが美しい。ノミさんが登場するためのドアの幅が狭かった件が微笑ましい。このセットに影響されたシンボルマークがかっこいい。直線で現わされるところがすばらしい。BAUHOUS のマークを連想させる。アメリカ中西部では受けたが、奇抜さや芸術を歓迎してくれる土地ばかりではない。ニュー・ジャージーは最悪。全然関係なさそうなツイステッド・シスターが登場する。なぜ彼らが登場するかというと、ある関係者のつてで彼らの前座を務めることになったから。労働者のバーでアートを演じるというのはまさにアウェイ。演じる方にとっては恐怖を感じたかもしれない。ドキュメンタリーの構成も面白くて、オープニングとエンディングは古典SF映画からの引用だろう。宇宙からやってきたのがノミさんという設定。最期は見送られていく。「会うのが早すぎた・・・また戻るさ」という映画の中のセリフがとても印象的。彼のお母さんのインタビュー音声が登場するが、その時のお母さんは顔写真を貼付けた切り絵とドールハウスみたいなジオラマの体裁。映像がなかったのか本人が拒否したのか分からないが、実際の本人が語る映像が出るより良かったかもしれない。顔写真自体も本当に母親のものであるか分からないし。関係者のインタビューも彼に肯定的な人ばかりではない。ある人は曲のクレジットやお金のことで散々だったことを話している。今では普通に聞こえる病気によって命を落とした最初のアーティスト。関係者が彼の症状について語るインタビューシーンもある。日本で宣伝された「人間、音楽だ」のポスターが少しだけ登場する。顔出し看板のように、書割がそのまま衣装になるのは、原始的でも良いアイデアなあと思った。ポスターのコピー "You don't Nomi" を見て、"Nomi" が "Know me" とも考えられるとあらためて気が付いた。意外だったことは、彼が有名になるほど困窮し、そのあげくアーティストに不利な契約を投資家と結んでしまったこと。なんだかありがちな状況。音楽や美術監督をしたがえた彼のステージは大きくなるほどお金がきつくなっていったのだろう。なぜかレコード会社も手を挙げない。投資家との契約により出来上がった音楽は彼の趣旨に合わないものだった。その頃のライブでは長髪のバンドに女性ダンサーが付き、それまでの前衛的で物語性のあったステージはただのロックコンサートになっていた。つまり商業主義。しかしそれがヨーロッパのレコード会社との契約につながった。ノミさんを欲していたというのはよろこぶべきことなのだろうが、会社は売り方が分からない。しかし彼のアリアはクラシックファンに、奇抜さは若者に受けた。その結果、会社の重要なアーティストになる。でもテレビ局での扱いはちょっとずさん。ほぼ物珍しさだけに思える。ノミさんは困窮しなければ何をやりたかったのか。何をやりたかったのか分かってしまえは、それはもうパフォーマンスやアートではないのかも。ショービジネスに流されてしまった最期に思える。そして彼を死に追いやった病気が「〇〇の癌」と呼ばれていた時代もあったのだ。副題の "the human race" はカート・ヴォネガットさんの「ガラパゴス」を思い出す。面白かった。


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