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仮題:スタナーと彼をめぐる話しについて 11 [仮題:スタナーと彼をめぐる話しについて]

【11回目】

♪『トミーほんとにさよならコンサート・リバイバル』の始まり

『未来に平和を——子供たちの環境を!』シンポジウムの中盤頃から人の入りだした会場は、『トミーほんとにさよならコンサート・リバイバル』のはじまるころにはすべての席が埋まっていた。
 多くのパネラーはなんの興味を抱いていない観客に苛立ちを隠さなかった。彼らは文化人だからである。文化人とは人種の名前ではなく、職業的な意味を持つ名前らしい。客寄せのパンダが呼んだ客はパンダしか見に来なかったのだ。だが成果はあった。大半がチャリティーに回されるはずの収益は、チケット完売によりほぼ達成されていたからである。
 ダブルのスーツを着たマネージャーはすでに逝ってしまったトミーのギャラの分配方法——チャリティーと取り分の再計算をしていた。バンドのメンバーの給料は安い。
 トミーは宗教になりつつあった。正直いってわたしは悲しかった。トミーが逝って、自らもいっしょに逝けなかったグルービーたちは平たいスクリーンに映るであろう彼の再臨を歓迎した。

 会場の天井には何本ものレールが取り付けられていた。それはトミーを映し出すスクリーンを吊すためである。トミーはそのレールに従って動かされる。そしてスクリーンを吊すポールによって彼の身体は上下にレイブするのだ。すべてが機械仕掛けだった。
 これは不幸なことか幸いなことか——トミーはネットワーク・ドライブウェイしか走り回れなかった。それ以外のところへは行けなかった。そのドライブウェイは秒刻みで増えていったが、しょせん彼はそこから抜け出ることはできなかったのだ。
 天井のレール——その高さは床から二十メートルの高さだったという。想像して欲しい。そのレールをはってゆくタミヨを。ポケットのたくさんついた黒いコンバットジャケットを着たタミヨの姿を。ポケットには閉ループソケットがしまわれていた。そのころスタナーは自分のオフィスにいた。
 タミヨの姿を見ていたもの——それはイタチとムースだった。カンジェロはいった。
「しょうがない、あいつらの仕事は衝撃波に注意することだったんだ」
 レールにはいつくばっているときタミヨは思ったという——「あのおじさんは何で来ないんだ?」

 スタナーは自分のオフィスにいた。彼はトミーが衛星回線をつたってこの星に降りてくるのを待っていた。ロック・ミュージックプログラムの画面に月のゴミが映る。それがトミーだった。
「トミー、今日はきみのコンサートじゃないか?」
 わたしの問いにトミーは応えなかった。だがトミーは準備ができていたのだろう。彼の砂嵐がまじる身体の周りでコロナが静かに発生しはじめていた。リョーコがわたしにささやいた——
「またはじまるわ」
 わたしはうなづいた。そして耳を押さえた。わたしたちが想像したとおりトミーの身体は電気火花にまみれて消えた。
 そして——
 リョーコとわたしの目の前に宇宙スクリーンが開いた。数十秒の時を要して、そこにスタナーが現れた。
「ハロー、モーガン、そしてリョーコ。トミーは出ていったようだね」
 わたしはスタナーが行う行動の一部始終を、この宇宙スクリーンを通じて見ることになった。
「これからトミーを閉じこめるよ。あの平たいスクリーンにね。その後にきみたちを地球に帰す。この宇宙スクリーンを使って」

♪現れた贋作トミー

 クイーンメリー号葬送曲が鳴り響く。それは未来のクラシックだった。トミーたちの音楽の前でクラシックはただのSEに落ちぶれた。その音楽は古い昔に行われただろう戦いの狼煙にすぎず、現れるであろう主人を待ち望む雄叫びだった——ああ、なんと下品で崇高な曲だろう! ストリングスは泣きこすれ、管楽器は頬を裂き横隔膜を破り続ける。そのすべてが——トミーを待っていた。クラシックは——古典的価値さえなくし、グルービーたちを欲情させるクスリになりさがってしまった。

 ステージで火花があがったとき、歓声が大きくなった。ドラムが聞こえてきた。ステージの両袖からチェーンを巻くエンジンの音とともにクレーンのアームがのびた。左側のアームにはベース、右側のアームのゴンドラにはギタープレイヤーが立っていた。彼らのレイブにあわせてアームが揺れる。SE代わりのクラシックの音は惨めに消えていく。そして一瞬の大音響とともに会場の電気が消えた。歓声はさらに大きくなった。お定まりだった——すべてはトミーが現れるお膳立て——定石——定番——お決まりのパターンだった!
 光が消えた——揺れた——床が揺れた——ステージが揺れた——空気が振動し——人の息が充満した——酸素が消えた——シンポジウムは消えた——子供たちの未来が消えた。ステージの奥へと続く天井のレール——そこから出現したもの——すべてが消え、胎動のごとき振動の中から現れたものは平たいスクリーンだった。

 記録済みのトミーは記録した動作を繰り返す。つなぎ合わされたトミーの記録はナフカディル・モシアズの時間と似ていた。見かけは連続的に、時間は断片的につなぎ合わされたトミーはある種の贋作だった。トミーの絵画的要素を愛したリョーコの考えを借りれば、スクリーンのトミーは、トミーを模倣した贋作だった。

「うるさいったらありゃしなかったわよ。酸欠にはなりそうだったし、なにより揺れてるのよ。それにわたしの目の前にあった照明を見てると恐かった——今にも落ちそうだったんだから!」
 タミヨはトミーが自分の真下に来るまでレールにしがみつきながらまっていた。
「自分が言い出しっぺだってことを後悔したけどしょうがなかった。わたしはただじっと待ってるしかなかった。あのトミーが入った薄っぺらい箱が自分の真下に来るまでの間をね。長い時間だった——」

♪動くスタナー

 スタナーが会場に入ることができたのは、彼の人間とは思えない特殊能力によるものである。それはもちろん『電気』だった。彼がゴム手袋を外したのは久しぶりだったろう——ようやく見かけ上でも人間らしくなれたのだ。
 警備員はスタナーの左手により、ショックのために気絶せざるおえなかった。

 そのときのスタナーはロボットだった。背中には小さなガソリン式発電器を背負い、両脇に箱を縛り付ける。ひとつはメイン、もう一方はサブだった。それは新品のコンピュータだった。腹にはキーボード。スパークを遮るための無骨なメガネをかけ、レザー通信を行うためのビームが取り付けられたヘルメットをかぶっていた。
「モーガン見てるか? これから会場に入るよ」
「ずいぶんと仰々しい格好だな」
「出来立てのロック・ミュージックプログラムが入っているのさ。けれどちょっと重いね」

 マーレー・フラスコがいった。「ほう動いた動いた——見てごらんカンジェロ」
「例のシビレ男ですか?——」
「そうだ。それにどこへ行ったと思う? あの衝撃波のそばなんだよ——近くなんだ」

 スクリーンはケーブルを引きずりながら揺れた。グルービーはステージには目もくれずトミーのスクリーンを追いかける。そして手を差しのべた。スクリーンが動くたびにグルービーたちの身体は一体となりながらうねりを繰り返す。わたしはその様子をリョーコと月の岩に腰掛けながら見ていた。
「みんな相変わらずね」
「そうだがきみは二回もあのコンサートを見に行ったんだ。きみもあそこのみんなと同じグルービーさ」
 リョーコは黙ってしまった。わたしはどうかしたのかと訊いた。
「あの人どうしてる?——」
「アユムのことか?」
 リョーコは頷いた。彼は泣いていたよ——それがわたしの頭に浮かんだ第一の答えだった。だがわたしはこういった。
「心配していたよ。何も口にできないほどね。自分を責めていた」
「あの人のせいじゃないわ」
「うん、わかってる。でも——なぜトミーはきみをさらってしまったんだ? ウィンクでもしたのか」
「そんなことするわけないじゃない。トミーはいってたわ」
「なんて?」
「わたしがあまりに冷めていたからだって」
 鑑賞物が人に媚びなければいけないように、鑑賞物も人が媚びることを期待していたらしい。それを裏切った観客の一人がリョーコだった。
「彼わかってくれなかった。わたしが芸術性云々の話しをすると彼はすぐにギターを鳴らしてはぐらかすの」
「わたしはひとつ提案したいんだが、アユムはきっときみと話しがあうはずだ」
「なんでそんなことがわかるの?」
「わかるんだ。けっこう彼のことはしってるつもり。彼は自分の芸術性に気がついていない。知識や語彙は豊富じゃないかもしれない。けれど、きみの話すことはみんなわかるはずだ——いやしろうとするはずだ」
「そう?」
「わたしも絵画や芸術が好きだ。そして周りにそうした話しを聴いてくれる人がいるととてもうれしいね。きみもそのはずだ。いつもママやパパじゃつまらないだろ」
「そうね、少なくともパパのは何ともいえないわね。ときどき血がつながっていなくてよかったと思うわ」

♪現れたトミー

 マーレー・フラスコはモニターのなかに強い衝撃波を見た。同じとき、スタナーも感じていただろう。マーレーいわく「こりゃすごい!」
 会場のスクリーンからレーザーのごとき光が周りに放射された。七色のスペクトルは会場に虹をもたらした。
「こりゃすごいエフェクトだ! 感動だね!」マネージャーはコンピュータ・ライティング・システムを操作する男に抱きついた。
「ほ、ほんとにすごいですね、ただのレーザーじゃないですよ」
「なんだよ、控えめなやつだね。おまえんところのシステムなんだろ——すっげぇぜ!」

 トミーはスクリーンの中に現れた。
 タミヨはスクリーンにつながっているケーブルから煙が漂っているの見た。「あいつ、あのケーブルを通ってきたんだ」——タミヨはセルフォンを取り出すとスタナーを呼びだした。
〈なんだ?〉
〈ケーブルから煙が出てる、あいつが来たよ〉
〈わかってるスクリーンから光が飛び散ってる——トミーがギターを弾いているんだ〉
〈どうすりゃいいのさ〉
〈きみはそこにいろ——二階席にあがれば彼のスクリーンの動きを止める〉
〈まだここにいるの〉
〈しょうがない〉

「くだらねえ!」
 トミーは一喝して、またギターをかき鳴らす。彼がギターを弾くたびにその音は光となって周りの空気こすれながらスパークする。そしてその音の周波数がドーム中に共鳴し、巨大なアンプやPAシステムをフィードバックさせた。グルービーたちは光を受け、ある者は絶叫し、そして倒れた。

 わたしはついもらしてしまった——「すごいな。いたずらにもほどがある」
 会場は光と電気スパークで埋まり、トミーのギターを含め、あらゆる振動は共振しあい、会場の揺れは増し続けているようだった。グルービーの声はほぼ絶叫に近かった。クレーンのアームは振動しギタープレイヤーは振り落とされそうになりながら絶頂に達しつつあった。「すげぇレイブだぜ!!」方やベースプレイヤーは胃の中味を吐き続けていて、楽器はフィードバックを続けていた。彼はその後、アームのゴンドラからベースを置き去りにして振り落とされたときにベースのストラップを首にからめ、失神し、そのまま窒息した。ギターの男は自らのギターを持ち、笑いながら十五メートル下に墜ちた。そして何人かのグルービーにぶつかり頭を割った。そして三人のグルービーがその狂った落下物により時間を放棄した。そのうち一人の腹部にはギターのヘッドが突き刺さっていた。
 唯一無傷なのはステージだけ——のようだったが、ドラマーは振動のためほとんど正常性を失っていた。数十チャンネルのミキサー卓も煙を上げていた。レベルメーターはほとんどレッドゾーンに入っていた。

 スタナーは焦りながら、身動きの難しい身体で観客をなぎ倒しながら二階へと上っていった。弱い電気を使いながら。ロック・ミュージックプログラムは彼のゲインを調整することができるようになっていたのだ。

 トミーは絶頂だったのだろう。シビレる鑑賞者たちを前にして鑑賞物である彼はよりいっそうのたかまりを覚えたにちがいない。彼の血がこびりついた稲妻ギターはなんどもなんども光と電気、そして原子爆弾級の摩擦音を作り出す——空気は媒体にすぎなかった。ほとんどのグルービー——もとい鑑賞者たちは息を吸うことを忘れかけていた。彼らには肺が、そして心臓があるというのに!
 そこは退化の場だった!
 トミーの声は消えていた。彼の気分のたかまりが上を目指すごとに彼の言葉は消えていったのか? すべてのメンバーが——ドラマーはモニター用ヘッドフォンから発された周波数のために気を狂わせて失神していた——は行動を止めたにも関わらず、彼らの楽器は音を発した——ギタープレイヤーが持っていた斧の形をしたギターは血で飾られていた。アームからベースプレイヤーをぶら下げているベース——それは地が響く振動でベースプレイヤーを時計の振り子のように振るわせていた。
 ドーム会場は空気振動カプセル——そしてロックンロールの落ちこぼれ、トミーにとって一瞬の逃げ場だったのだ。
 わたしはつぶやいた——「見ちゃいられないな」——リョーコは何もいわずにスクリーンを見ていた。

〈まだ! おじさん!〉セルフォン越しにタミヨがどなる。
 スタナーが二階席のフェンスにたどり着いたとき、目の前にスクリーンがあった。その奥にはステージ——彼は腹に固定したキーボードを叩いた。火花が散った。いくつかのキーを叩いたあと、スクリーンは止まった。
〈タミヨ止まったぞ〉
 タミヨは返事をする間もなく、レールの上をネズミのように移動した。不快感を胸に感じながら。彼女は吐きそうだったのだ。ちょうどスクリーンの真上——タミヨはスクリーンを吊すチェーンをつたって降りた。その姿はネズミでもサルでもなく——ウサギだった。彼女の身はとても軽かった!
 タミヨ曰く「やるときゃやるのよ」

 音が消えた。スクリーンの上にお馬のようにまたがったタミヨがケーブルを引き抜いたのだ。しかしそれはタミヨにとって最悪なことでもあった——タミヨの身体が吹き飛ばされたのだ——コネクタを引き抜いた後、ソケットからは激しい光が放出された——それはトミーの血ともいえるものだった。
 タミヨはスクリーンから吹き飛ばされ、そのままグルービーたちのうごめく地上へと墜ちていった!
 トミーは狂った。

♪スタナーの最期

「すごい光だ——カンジェロ見てみろ!」
 マーレー・フラスコはモニターの前で小躍りしていた。カンジェロはわたしに説明してくれた。
「それはマーレーの祖父が孫——つまり彼のためにプロデュースした『アストロノーツの宇宙大冒険』に登場した宇宙戦争を見たとき以来の感動だったらしい。彼は手を叩き、モニターをレーザービームで打つマネをしながらよろこんでいた——『ビューンビューン』ってね」
「カンジェロ、きみの部下は何をしてる? ここにいるのか?」マーレーはそういってモニターで激しく光る部分を指さした。そして別の方も——「それからここ、シビレ男はすぐそばにいる。なにか報告はないか?」
 カンジェロは困ったらしい。
「モーグ、あいつらからまったく連絡はなかったのさ。会場に行くまでに一度あったきりだった。話しによれば——彼らは失神していたらしい。若い娘どもに押しつぶされながらね——まあ趣味がちがいすぎたんだろう」
 無理もない話しだ。
「ムースはいったよ——『おふくろの作った豆料理の夢を見てました』ってね」

 会場から次第にフィードバックが消えていった——
「ちくしょう! どうなってる?」トミーが叫んだ。それでも彼は回復を祈りながら光を放射し続けた。だが、フィードバックは再生されなかった。「ちくしょう! ちくしょう!」トミーはさらに放射を続けた。その放射のいくつかは、失神していた鑑賞者を永遠の眠りへと誘った。

「止めろよトミー——くん?」
「誰だ? どこにいる!」
 トミーはあたりを見た。そしておかしな人間を見た。背中に発電器を背負った男だった。「あんたは誰だ?」——それはもちろんスタナーだった。スタナーはやさしくいった、
「もう暴れない方がいい」
「うるせえ!」——トミーがそういった瞬間にスクリーンから光が放たれた——スタナーにむかって。
 激しいスパークが起きた。それはトミーの衝撃波とスタナーの手から放たれた光の激突によるものだった。スタナーの手から煙が上がった。トミーは『信じられない』といった顔をスタナーに向かって投げた。そしてさらにもう一度、稲妻ギターから衝撃波を放射した。それも同じこと——スタナーが衝撃波を遮った。
 わたしは恐ろしくなった。スタナーはどれだけの力を彼の身体にしまい込んでいたのだろう——
 スタナーはまだ立っていた。身体中から煙が立ち上っていた。
「スタナー! 止めるんだ!」わたしは叫んだ。リョーコはわたしの身体に抱きついていた。
「ちくしょう! これならどうだ!——」トミーはさらに大きな力を持つ衝撃波をスタナーに浴びせかけた。スタナーはキーボードを叩いた。トミーの衝撃波と遅く放たれたスタナーの光——それはスタナーの眼前で激突した。今度はスタナーが吹き飛ばされた。彼は鑑賞者たちをなぎ倒し、二階席の奥まで飛ばされた。
 トミーがスクリーンの中で跳ね回った。「ヒャッヒャッ!——ヒー!——やっと飛びやがった。ざまあみろ!」

 それがスタナーの最期だったろうか?——いやちがう——スタナーはまだ生きていたのだ。
 スタナーは白煙の中から立ち上がった。左脇に抱えたメインコンピュータはすでに溶けていた。背中の発電機はその動作を止めていた。メガネの片方のレンズが割れ、そこからは血が流れていた。
「おや、また立った。立ったしたぁ♪」トミーがスタナーをはやし立てた。
 スタナーは背中の発電機をおろし、両脇からコンピュータを外した。
「おやおや丸裸♪——でももうだめさ♭——これでおしまい♯」トミーがギターのネックを自慰のようにこすりたてる——そして放出されたものは衝撃波だった。

 スタナーはそれを受け止めた。激しい光のなか、トミーの悲鳴が聞こえた。スクリーンを砂嵐が渦巻いていた。そこにトミーの姿はなかった。
「スタナー、だいじょうぶか?」わたしは宇宙スクリーンに向かって問いかけた。リョーコの目はスタナーを捜していた。スクリーンは何の映像もないように真っ白だった。もやが消えていった。静かな会場が見えた。
 天井からぶら下がっているチェーン——その先にトミーを写していたスクリーンはなかった。それはグルービーたちの上に墜ちていた。そのおかげで五人の時間が放棄されていた。
 スタナーが立っているのが見えた。服は焼け、身体は煤で汚れていた。
「——だいじょうぶだ。モーガン・サザーランド」スタナーのかすれた声が流れた。
「ほんとうにだいじょうぶなのか? 真っ黒焦げだ」
「だいじょうぶ——心配しないで。でもちょっと焦げ臭いな」
 スタナーはよろめきながら、投げ出された発電機とコンピュータを拾い、それを調整しはじめた。発電機が動いた。そのエンジンの回る音が会場の中に響く。スタナーがキーボードを叩く。
「これから、きみたちをここに帰す。その前に——」そして叫んだ、「タミヨさん、いるのか?」
「いるわ——っ——痛っ」太ったグルービー娘を押しのけてタミヨが姿を現れた。「どうなってんの寝てるみたいに静か」
「まだ閉ループコネクタを持っているか?」
「持っているわよ——で、どうするの?」
「それはしまっておいて、ケーブルを元通りに差すんだ」
「えぇ? せっかく抜いたのに?」
「それを差さなきゃリョーコたちは帰ってこない」
 タミヨは口答えを止めた。ありがとうタミヨ——きみのおかげでわたしたちはまだ生きている。
 スタナーのプログラムはわたしたちを帰してくれた。近づきすぎた未来はまたもとどおりになった。リョーコはまた自分の時間を取り戻したし、わたしはこうしてスタナーの思い出話しに興じている。それは付け焼き刃のプログラムだったので、わたしの五本あったうちの指が一本かけてしまった——だがそれは悲しむ理由のにはちっぽけすぎた。そう——あまりに小さすぎる話しだ。

 スタナーは周囲を青白く光らせる『よみがえった』トミーに近づいていった。トミーはリョーコとわたしが出てきたスクリーンの中から現れた。彼の周りの空気が火花をたてる。スタナーとトミー——彼らは次第に二人の距離を縮めていった。そして二人が一体になったとき——トミーはスタナーの中に吸い込まれた——そして爆発した。

【続く】



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