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仮題:スタナーと彼をめぐる話しについて 10 [仮題:スタナーと彼をめぐる話しについて]

【10回目】

♪さみしいじゃないか?——そして観音様

「オレはあんたらをあの星へ戻すつもりはないよ——勝手に来たなら勝手に帰れ」
 だがリョーコは彼の意図をわたしに語ってくれた。
「トミーはさみしいのよ。だらしないわ。話し相手を失いたくないの」
「独りだってさみしかない!——オレにはこのギターがあるんだ」
「それじゃそのギターがなかったらどうするの」
 トミーは応えなかった。

 トミーは時折外へ——月の外へとドライブに出かけ、そして必ず帰ってきた。その間リョーコとわたしは月の上で置き去りになった。帰ってきたトミーはアルコールに酔っているようだった。そして「ただいま」もいわずに稲妻ギターを弾き鳴らした。音は彼の身体——電気で増幅され歪んだ。わたしもリョーコに習って耳をふさいだ。慣れたものだった。
 リョーコとわたしが地球に戻るのは『トミーほんとにさよならコンサート・リバイバル』もとい、『未来に平和を——子供たちの環境を!』シンポジウムを待たなければならなかった。

 トミーは観音様(わたしはそれをガーディアンのことだと理解した)の指を見たという。実際にトミーは指だとはいわなかった。だがわたしは考えた。
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 遠い昔、宇宙を横切るサルがいた。彼は観音の挑発にのり宇宙へと身を投じたのだ。それは過信した自分の力を誇るためだった。彼は宇宙にいったことを証明するために、宇宙に浮かぶ水晶の柱に自分の名をサインした。いつかここにたどり着く人間のために?——いや、自分が最初にたどり着いたことを誇るために、自慢、吹聴、動物的テリトリーのために——壁に描かれたポップアート、そして電柱に小便をひっかける犬——少なくともデジーの愛犬はガガーリンはそうした。
 それはともかく——ガーディアンは宇宙だった。水晶の柱は彼女の指だった。サルは彼女の胎内宇宙を走り回っただけだった。
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 これはモシアズから聞いた話しだ。

♪人間は仲直りができる? できない?

 人間は仲直りができる動物だろうか?——たぶんわたしたちは臭いだけをかぎながら生きているわけではなく、理性によっても行動できるのだから、少なくとも一般のホ乳類よりはそうしやすいはずだ。事実アルはデジーに対してそうした行動を起こしつつあった。だがこの場合の仲直りというのは敵対する意識はとても独りよがりなもの——つまりアルの感情にしか焼き付いていなかった。デジーには人を嫌う感情はない。元々デジーには実体がなかった。ほんとうの姿はどろどろとした鉱物だった。その気になれば複数の自分の同類たちと融合・同化することができた。ただなるべくそうしないだけ——デジーたちにも摂理があった。古いものは滅びなければならない。皮膚の角質がはがれおちるように。
 とにかくアルのなかの古い感情は解きほぐれつつあった。季節の変わり目に雪がとけてゆくように。そしてわたしは心の中でつぶやく——
『ここは暖かいかもしれない——だが外では雪が降っているのだ』
 そして雪はとける。たぶん——

 だがここで本音。
 アルが仲直りを——デジーを許すことができたのは彼がトミーのいたずらが原因で手に入れることのできた金のためでもあった——そんなアルを悪い人間だと思わないでほしい。それを白状するわたしの方が悪い人間だ。しかしこれだけはいえる——金のなくなったアルはまたデジーを呪ったのだ。それが根拠である。

 仲直りといえばタミヨはどうしただろう?——頬に醜い傷のある彼女もまた呪うべき対象を持っていた。それはトミーである。
 トミーはタミヨという名をしらなかったが、自分がギターで殴りつけた相手が女性であることは覚えていた。
 結局この二人は仲直りができなかった。根本的な仲直りなど存在しない。すべては表面でのみ行われているのだ——誰が人の内面まで入り込むことができる?
 それはアユムの考えとも似ていた。

 アユムの部屋に残ったものはラッピングされたままのプレゼントや旅行のおみやげ——それはどういったものか?
「モーガン、ボクはねとても好きな人にあげようとおみやげやプレゼントを買ったりするんだけれど結局あげずじまいなんだ。なぜ?——モーガンは『なぜ』ばかりだな——その理由ってのはさ、彼女が迷惑がるだろうなと思っちゃうのさ。誰でも好きでもない人間からそんなものもらいたくはないだろ?——それにストーカーみたいじゃないか。ボクは時代に遅れちまったんだろう。近い将来——ボクは思うのさ——人のことを心に思い続ける——それだけで捕まるじゃないかってね」
 アユムの話しは少々サイエンス・フィクションぽくもある。だがわたしの心にはアユムの意見に同感するところもあった。
「ボクはきっとストーカーの罪で終身刑だ——電気イスの判決よりひどいよ」
 わたしがもし裁判官ならばこういうだろう。
「被告——情状酌量」
 気分の悪くなった被告を見て裁判官はいう——
「誰かクスリはいらんかね?」

 アユムは女性を——人間全般を好きになりながら結局その心の中まで入り込むことができなかった。たぶん合い鍵がなかったのだ。

 時間を放棄しながらも電気や光になって存在し続けたトミーが完全にその存在を消し去ったのはスタナーのおかげだった。だが、そこにはタミヨの力もあった。
 トミーがわたしに、なぜここにリョーコがいることをわかったのか? と訊いた。
「その理由にはふたつある。ひとつはスタナーの推測だ。彼はこの月にゴミがあるといった——そしてそのゴミが遠くから放つ力と、『追悼集会コンサートツアー』できみから感じた力が同じであることをつきとめた。
 そしてもうひとつ——リョーコをさらったのはきみだという女性がいたんだ」
「女性?——女がそういったのか?——それは誰だ?」
「きみを知っている——そしてきみも知っているはずの女性だ。その女性はタミヨという名前だ」
「知らないな。誰だ? それは——」
「きみがそのギターで傷つけた人間の一人だよ。そのギターにこびりついている血の持ち主だ」

♪早すぎる結論

 『トミーほんとにさよならコンサート・リバイバル』もとい、『未来に平和を——子供たちの環境を!』シンポジウムは、トミーの存在をしらない人間たちにより開催されることになった。
 スタナーは宇宙スクリーンからリョーコとわたしに話してくれた。
「モーガン元気にしてるか? そこにトミーはいるか?」
「ラッキーだね——いない」
「——たぶん——いや、確実にトミーはコンサートに現れるよ」
「そう思う。間違いないね」そしてわたしは訊いた。「彼のコンサートに行くつもりかい」
「わからない。プログラム次第——まだボクのロック・ミュージックプログラムは完成にいたっていないんだ」
 そのときスタナーは宇宙スクリーンの次のパートに取りかかっていた。それはほとんど完成されかけていたらしい。タミヨはいった、
「もうすこしってとこだったのよ」
 タミヨはスタナーがキャラクタを操っている間、そのとなりに立っていた。そのとおり——彼女はただ立っていただけだった。
「そりゃそうよ。あんなものを見たってわたしにはわけがわからなかったわね。なんだか英語みたいだったけれど」

♪ロック・ミュージック&ポテトチップ

 ロック・ミュージックプログラムの最初の構想は宇宙スクリーンだけで構成されていた。スタナーはそれを使って月のゴミをスクリーンを通じた目で確かめてやろうとしたのだった。そしてそのスクリーンを使って最初に見たものはリョーコやわたしの姿だった。
 彼はそれに対して新たな追加処理を施さなければならなかった。リョーコとわたしたちを救うことと、そのために——これは無条件に必要なること——それはトミーを完全に消し去ることだった。

 タミヨはいった。
「スタナー?——あのおじさんは悩んでたの。よくわからないけど『トミーのやつを吸い取るんだ』てね。ただそのためにはあいつをどこかに封じ込めなくちゃならない。それをどのようにしたらよいのか?——そんなことを考えてた
 わたしにはどうしょうもなかったわね。逆に苛立ちさえ覚えたわ。何もできない自分に? いやちがうわ——あのトミーを、自分勝手で大バカ野郎のトミーをひねりつぶすのになんでこんなまどろっこしいことをしなくちゃならないの? あのおじさんの熱心さには感心したけどね」

 わたしはタミヨに何か食べるかと訊いた。「たとえばポテトチップなんかどうだ?」——たいがいの若者はポテトチップが好きだというわたし自身の思いこみに似た考えによるものだった。ところがわたしがそういうと、タミヨはうんざりとした顔を見せた。
「そんなものもううんざり」
 スタナーはキャラクタを操作している間、よくポテトチップを頬ばっていたとタミヨはいった。ところが実際の話し——それはタミヨが買ってきたものだという。スタナーは最初、タミヨに「ポテトチップを買ってきてくれ」と頼んだ。彼女は使いっ走りという役目に内心ふてくされながら店に入った。ところが棚に並べられたポテトチップ見たとき、スタナーの好みが何であるのか悩んだ。
「十五袋買っていったわ。これ見よがしのつもりでね」
 彼女が買ったポテトチップたちの中でスタナーが気に入ったものはキムチ味のものだった。
「あのおじさんその空き袋をとっておいて、『これ』とかといってわたしに渡すの。おしまいには箱ごと買っていったわ」
 スタナーはゴム手袋をしたままそのポテトチップを食べ、片手はキーを叩き続けていたという。彼女はスタナーのゴム手袋を気にとめることはあっても、特になんの質問もしなかったという。
「変なおやじってどこにでもいるでしょ。あいつはそういう奴だったってこと——
 でも訊いたわ——『なんでキムチ味なの』ってね」
 スタナーはこう応えたという——「自分の好みは自分にもわからない」

 タミヨはスタナーが悩んでいたトミーを封じ込める方法——それを解決した。それはスタナーの『キャラクタ』とはまったく異質なやり方だった。
 トミーを『宙ぶらりん・移動式・超薄型・数千万色表示』のスクリーンに封じ込めるために、タミヨはスクリーンに飛び移り、トミーの『ドライブ用ハイウェイ』である画像ケーブルのコネクタをソケットから引き抜いたのだった。そしてスタナーが用意したループ回路のコネクタをソケットに差す——これでトミーの『ドライブ用ハイウェイ』は、レーシングサーキットのように閉じられたループになる。その結果、トミーは同じ路面を何度も繰り返しながら走ることになるのだ。
 スタナーはタミヨにそれが危険なことであると諭した。
「いってやったわ——『何の危険もなくやり遂げようと思ってるの?』ってね」
 だがいちばんの危険はスタナー自身にあった。スタナーはそれを口にはしなかった。彼は自分自身に予定されている危険性を一言も口にせず、隠しながら、タミヨの提案を止めようとした。——そのあげくスタナーは爆発して手首だけが残ったのだ。
「わたしあのおじさんは自分の危険を避けるためにキーを叩いていたと思ってたのよ。でも——」
 タミヨはスタナーの最後を見たとき、彼がどれだけの危険を隠していたのかを知った。
 結局タミヨも今はこの世にいない。トミーが完全にいなくなったあと——つまりトミーに対する復讐が終わったあと、彼女は新しい序章を作り出すために顔の傷を消し去るための整形手術を受けた。
 その結果彼女は感染症のために自分から望まずに時間を放棄してしまったのだ。

♪ロック・ミュージックドロップアウト

「トミー、実際のところきみは落ちこぼれだったんだ。落ちこぼれもいいところ。ほんとうに落ちこぼれ。ロック・ミュージックにすら落ちこぼれてしまったんだ」
「オレが落ちこぼれだって?——ギターを持ちながら売れないやつらは腐るほどいるさ!」
「そうじゃない——トミー、きみはロック・ミュージックに見放されているんだ——何も求めようともしていない——ただ利用するだけだ」
「そいつはちがう!」
「ちがわない。それじゃあなぜ辺りを壊し、あげくタミヨの身体に傷をつけたんだ——きみのギターは音を鳴らすものじゃないか!」

 言葉をなくしたトミーは激しいスパークとともにどこかへ消えた。リョーコやわたしには見えないドライブウェイがそこらへんにあった。至る所が電波でつながれているのだ。
 トミーはいたるところに顔を出していた。テレビ・ラジオ・スクリーン——そしていちばん居心地のよい場所は月の上である。そこは行為を終えた後の余韻を楽しむ場所だった。

♪管理職カンジェロ

 カンジェロと会ったのはサワコのバーだったか?——いや、会社の応接間だった。彼はトランスポーターでやってきた。それは初めての対面だった。だがわたしたち二人には共通の友人がいた。それはマーレー・フラスコである。
 カンジェロは「はじめましてミスターモーガン・サザーランド」といいわたしに握手を求めた。
「こちらこそミスター・カンジェロ」わたしはいくつかの言葉を思い浮かべた。『天気がいいですね』『調子はどうですか』『ニッポンは初めてですか』——そしていった、「ニッポンにようこそ」
「初めてだが——すいぶんと狭い街ですね」
「広いところもありますよ」
 カンジェロは少々戸惑っているようだった。彼はしきりにもみ手をしていた。こんなとき、サワコのバーにでもいたならば、自然と意味のない言葉が口からこぼれていただろう。そしてそれは事実そうなった——その日の夜わたしはスタナーのことを振り返るつもりでピーナバーへ出向いたのだ。カンジェロの『わたし』は『オレ』に変わった。彼もまた、変化についていけない人間だったのだ。しかしカンジェロはグチめいたことを口にはしなかった。彼の言葉の変化はけっしてアルコールによるものでない——その証拠にカンジェロが口にしていたものはルートビアだった。彼はわたしに心を開いてくれた。少々自画自賛気味の言葉であるが、わたしが彼の『メガネ』にかなったのかもしれない。
「ミスターモーガン、いや『モーグ』——モーグと呼ばせてもらう。モーグ、オレはまっとうなギャングなんだ。オレの家はオレの爺さんのころから続くギャング一家なんだ。まっとうなね。誰にも媚びることはなかった」
「今はまっとうじゃないのか?」
「まっとうとはいえないね」
「どんなふうに?」
「説明するのは難しい」
「ふーん」
 カンジェロの脳ミソには言葉に表すべき多くの記憶が隠されていたにちがいなかった。だが彼はそれを口にすることはできなかった。彼のプライドが壁になっていたのかもしれない。わたしには容易に想像がついた。たとえばカンジェロがマーレーの頼みを断れなかったことである。それからもうひとつ——彼は今名目上ある財団の管理人であり、もめ事仲裁業の幹部という地位にあることだった。

 とにかく——彼はその場において、マーレーからシビレ男『スタナー』の監視を頼まれたことを話してくれた。
「やっぱりムースやイタチはあなたの部下なんだろう?」
「そうだ」
「彼らはスタナーに対してずいぶんと注意をなさっていたようだったが」
「そうだろうな」
「マーレーはなぜスタナーを監視させたのだ?」
「ボスが——いや、マーレーは彼の身体が発電装置になっているといっていた。わたしにはそれしかわからない。しかしマーレーは彼の正確な名前や所在をしっていた。たぶんマーレーはスタナーの何かに荷担していたからだろう」
 カンジェロはシガーを一本取り出し、時間をかけて火をつけた。深々と煙を吸い、そして吐き出すと店のなかにシガーの香りが広がった。わたしはたしかにむせた。わたしの祖父が楽しんでいた香りの再来だった。
「彼はいつも画面を見ていた。そして彼の居場所を確かめていた。光や電気——それから衝撃波がどうだとかいいながら」
 わたしはうなづいた。マーレーの様子が容易に想像できたからだ。彼はデジーすら監視していた。世界最高の管理職だろう。
「モーグ、きみは彼の友人だった。だからいろいろと訊きたいこともあるだろうが、わたしにわかるのはそのくらいだ。結局シビレ男はいなくなってしまったんだな」
「ああ、彼は破片になった」
「マーレーはトミーにも目を付けていたのか?」
「トミーというと?——たしかにそんな名前は出たな。イタチから報告があった」
「スタナーが闘った相手——『衝撃波』だ」
「それなら聞いたことがある。マーレーは監視する矛先を変えさせたんだ。のろまなスタナーはさておいて衝撃波の監視に切り替えた。もしかすると——
 マーレーはスタナーが光るの待っていたのかもしれないな」
 わたしには訊けなかったことがある。
 ——スタナーが愛した妻と息子について何かをご存じか?

♪モシアズ最後の贋作

 カンジェロ曰くわたしは『モーグ』だった。モーグ?——カッコいいじゃないか? まるでモルグだ。そして今ではゾンビ。息絶えながらも生きている——他の人間たちをさしおいて。
 リョーコは自分のために少なくとも二人の人間が時間を放棄してしまったことについて深い自責の念を感じていたのではないだろうか?
 リョーコ、きみがそれを感じる必要はない。
 一見リョーコは変わりない様子だった。だが彼女の母親であるサワコはいう——「リョーコうつ病ね。わらわないの」
「笑わない娘は多いよ」
「あの子は特別よ」
「趣味ってやつはいろいろあって——多い方がいいんだよ」
「趣味じゃないわ」
「いいや、趣味は気を紛らわせたり、リセットするためにある。彼女の本質は——もっと別なところにある。リョーコは今過程にあるんだ」
 リョーコのうつ病は高校を卒業する頃にもっともひどくなり、結局卒業できずじまいだった。それでも彼女のIQは高い。

 サワコはモシアズ——ナフカディル・モシアズと別れることになったらしい。
「ちょっとあきれちゃったわね」
 サワコがいうのはモシアズが作った最後の贋作だった。
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 さあ、見てごらん——これがピ○チュウ!!——どうだよくできているだろう? 生きているピ○チュウって見たことあるかい? でも残念ながら手やしっぽ、それに耳は動かない。縫い合わせたものだからね。神経のつなげ方がわからなかったんだ——もともとボクにはそんな技術はなかった。医者じゃないんだから。でも心臓を止めずに各部位を切り取る方法は勉強したよ。他の学部の人間から聞いたのさ。色が斑なのは肌のせいだ。よく染まらなかったんだな。もともとはアライグマだったんだ。いちばん苦労したところ?——手やしっぽのつなげ方だって?——そうじゃないんだ。苦労したのは首周り。テレビやフィギュアを見る限りじゃこいつの首は寸胴じゃなきゃいけない。アライグマじゃ細すぎた——そもそもあんな寸胴の首を持つ動物を探すのが難しいよ。ペットショップじゃ売っていない。でもやっぱり顔だよ——人形だって顔が命だろ? 役者が頬に綿袋を詰め込んで顔を丸くするように、顔のあちこちにシリコンを詰め込んだ。あと背骨にはまっすぐなスティール——これでこいつは直立できたんだ。それだから身体のあちこちに補強の骨を埋め込んだ。残念ながらこいつは自分の意志で手を動かすことはできない。そのかわり電極を埋め込んだ。このリモコン——このスイッチを押せば電流が流れて引きつるように動く。しっぽも同じ。そのときは腕やしっぽに触れちゃダメ——結構電撃がくる。ほんとうはラジコンにしたかった——ワイヤレスだ。
 でもこれでピ○チュウ一丁上がりってわけさ。
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 モシアズの描いた何編かの絵画は店の壁から外されることになるのだろうか?
「とりあえず外さないわ。あれでもけっこう気に入ってる」
 モシアズはいった、
「絵の人物は鑑賞者を見てはいけないんだ。ところが○ネはちがったのだ。それは見るものを見下してしまうんだ。ポーズもとらなけらばならい——それは媚びなんだ」
 そしてこうもいった。
「きみはサワコといっしょになったらいい。それが現時点での最高の選択だね」
 複数の時代を持つモシアズの中ではわたしや他人はただの粒子にすぎない。粒なのだ。

【続く】



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