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仮題:スタナーと彼をめぐる話しについて 3 [仮題:スタナーと彼をめぐる話しについて]

【3回目】

♪スタナー ロック・ミュージック

 その街にやってきたのは、大きなスクリーンを抱えた、バンドの一団だった。円形に組み立てられた、舞台の上——その中心にスクリーンは据え付けられた。
 スクリーンはひとつの住処だった。それは見えない媒体で接続されていた。接続先は宇宙かもしれないし、天国かもしれなかった。
 媒体はなんだったろうか——それは電波かも知れない。とにかく何かを変化をさせたり伝達するためには電圧が必要だったのだ。
 スクリーンに写し出されるものは、人間の姿だった。
 彼は自分の姿をスクリーンの中だけに映し出せた。彼は生きていたのだろうか?——いや、そうではなかったようだ。
「これは奇妙だ」——そういったのはスタナーだった。彼の手袋がはめられた手には、十五歳になる少女の手が握られていた。少女はピーナバーのママの娘だった。その名前はリョーコといった。わたしはその名前をママに教えてもらった。知識はあらゆるところから手に入る。
 ニッポン語がつたないスタナーがリョーコと行うコミュニケーション言語は英語だった。スタナーは怪訝そうな顔でいった——「リョーコ、彼はいったいどこにいるんだ?」
 あの人天国にいるのよ——それがリョーコの答えだった。
 それはビデオテープであったのかもしれない。たぶんそうだ。しかし、リョーコが思うに彼は天国にいた。リョーコを含め、会場にいるほとんどの者が、彼は天国にいると思っていた。スタナーは戸惑った。『彼らは天国の存在を信じている』
 つまりこうである。
 天国——それは宇宙かもしれない。そこから電波がおくられてきた。その電波は会場に置かれたスクリーンに届き、電圧で構成された彼の身体はスクリーンの上で青赤黄色の光により再生された。
 わたしはスタナーにアドバイスをしてあげた。「このスクリーンにしろ、テレビであったにしろ、その向こう側には何があるのかわからない。それはエアコンの効かないスタジオかもしれないし、彼女のいうとおり天国かもしれない。もしかするとその実体は単なるビデオテープかもしれないな」
 スタナーは何もいわなかった。
「——彼は一生時間を放棄することはできないのか? いつまでたってもその記録をさらけだすのか?」
「うーん、リョーコはそんなこと考えちゃいないよ。ここにいるみんなは彼が時間を放棄してしまったなんて思っちゃいない。彼は天国にいるんだよ。それがどこにあるかは探さなきゃわからない。けれど彼はそこにいるんだ。そして偉大なテレパシーのような電波でそこの会場に姿を現しているんだ」
 スタナーがこの会場に来た理由は、リョーコにせがまれたためだった。といってもリョーコはそんなに強く希望しなかったかもしれない。スタナーを決心させたのは、ママの言葉だった。『心配だからついていって』——そうした言葉である。わたしもその言葉を聞いた。
 たぶんママは、リョーコが他の男たちにかまわれることをこのまなかったにちがいない。自分の娘を守るために彼女はスタナーにボディーガードを依頼したのだ。スタナーはボディガードに相応しい人間である。彼は電気を発することができるから。歩くスタンガンだった。
 スタナーはママの申し出を断らなかった。その前——リョーコからせがまれた時にもう決めていたのだ。幸い、スタナーにはロックミュージックに対するアレルギーはなかった。彼はいわゆるロック・オブ・エイジズだった。それはわたしも同様だった。二人ともギターを弾いたという経験があった。それは今考えると少し背中がかゆくなるような思い出かもしれないが、自由というものを知った瞬間でもあった——こう言及することすら恥ずかしいことなのだが。
 しかしスタナーとわたしには少々あやしい確信があった。たぶんロックミュージックは一世紀に満たない歴史の流れのなかで、誤解や音質的な向上こそあれ、その本質は変わっていないと思っていたのだ。つまり再度の言及となるが——『自由』である。だが実際にはちがっていたようだ。それは半分当たっていた。ちがっていたことは?——わたしはロックミュージックにとりつかれて天国に行けるとは思わなかったからだ。それはスタナーも同意見だった。
 わたしとスタナーのちがいは何だろうか?
 わたしはたぶん現実を迎え入れることができる。それはとても簡単なことで、目の前にあるものを現実だと思えばいい——それだけのことだ。だが、スタナーはちがっていた。彼は現実を受け入れることができなかった。
 それもそうだ——誰が自分のことをシビレ男だと信じることができるだろう?
 わたしのすることといえば簡単である。わたしはこういえばいいのだ。
「スタナー、きみはシビレ男なんだ。それが現実なんだ」

♪下落する価格

 ああ、こいつはどうしたことだ? わたしの価格が下落してゆく——くだらない過当競争は終わったのだ。わたしの債券の価格は下落し続けている。これはわたしが始めた事業だった。わたしを切り売りされる金券だ——

♪生きている? トミー

 獅子座流星群——これは退化の前触れだった。星空観測愛好家が見ていたものは、トミーの野望に過ぎなかったのだ。彼のディストーションは、歪みきってファズの様相を示していた。彼の歪みには電気的要素がいちじるしく、それは光となってそこら中に放たれた。ああ、——それは稲妻ギターの響きだった!
 トミーが角ばかりの稲妻ギターをかき鳴らすたびに、磁気により発生した嵐が星々を粉々にしていった。そのときに発生する光は、人の身体を一瞬にして溶かすほどであったが、この地球上にいる観測者たちの前には、夜空で散っていく、ただの線香花火だった。赤くなった頭はあまりの高温のために白い光を見せた。しかし——それはトミーのファズめいた稲妻ギターが放つ自己満足の皮をかぶった精液だった。
 なんてね——

♪デジーに復讐するもの

 彼はデジーに復讐をする。それがデジーのバンドがレジスタンスたる生き残りたるべき将来であり、それが生き残るべき方法だった。それが方法だったのだ!
 荒野のガソリンスタンドで、彼はただひとり待っていた。デジーがくることを。デジーは全米ツアーの真っ最中だった。
 デジーはいう、
「彼はまさしく——ワタシを怨んでいたんだ。ワタシは彼の普通の生活をぶちこわしてしまった。彼はただのミュージック好きで、フォークミュージックが家庭を延命させる唯一の絆と信じていたのに——」

♪わたしたちも独り言をたしかに聴いたのだ

 トミーの足下にある階段はあそこにつながっている。
 あそこって?——もちろん天国さ!
 トミーはほんとうに天国にいったのか?
 トミーは月のあばたにいるよ。
 トミーはとまどってる——なぜ自分が天国——いや月にいるのかを。
 だいたい天国ってどこにあるんだ?
 だから天国じゃないのさ——月なんだよ。月の裏側だ
 訊いてみよう——イギリス人に。
 わたしは知ってる——そいつはイギリス人だ。けれどもともとは宇宙人だ。あいつは入れ代わったのか?
 彼も昔は若かった。この間はこの国でいう——本家がえり、還暦を迎えたんだ。今じゃ六十一なんだよ。
 宇宙へ行くのに歳は関係ないんだ。七十歳を超えた上院議院でさえ、宇宙船に乗り込んだ。彼は自らモルモットになった——そして老人でも宇宙にいけることを証明したのさ。
 でも彼とその上院議院には決定的なちがいがある。上院議院の心はみずみずしかったが、——あいつは化石なんだ。
 もう彼の頭はからっぽなんだ。すべてのアイデアを放出しつくしたと思っている——水分のかけらもないくらいにひからびてしまっている——と、本人は考えているのさ。
 それでもあいつの絶頂は、宇宙人という姿をそのままみんなの前にさらけだした時だったかもしれない。つまり宇宙人ミュージックを演っていたとき——そのときが絶頂だった。
 何回かのツアーのあと、彼は新しい音楽を想像し、創造しようとした。それは人間らしい音楽だった——軽快で健康的でみじんの腹黒さも見えないような——たいがいの人は、それをディスコ・ミュージックといった。
 踊らされる人々にはどんなミュージックであろうと関係がなかった。彼の創造したディスコ・ミュージックは少々インテリぎみだった。踊る人間にはそれがわからなかった。それだからたいがいの人間にとって、彼のそれは他のミュージックと変わることはなかった。ほとんどの人間がその中に価値を見出せなかったんだ。そもそもミュージックにどれだけの価値があるかわからないが——ディンギってのはまったく単純で奥深いものさ。
 決定的なことは——彼のミュージックは人々に聴く場所を選ばせたんだろう。彼は失敗したんだ。次に彼が選んだものは——奇妙な電子音と砂漠に吹き荒れる嵐のようなエコーだった。
 彼はそれっきりだ——

 スタナーはいった、
「なあ、モーガン、そいつってデジーのことか? あのリンボー・デジー」
「そう、デジーって呼ばれてたね」
「デジーは宇宙人だったのか?」
「そうだよ——彼がもっていたほんとうの瞳は縦長で、爪の形はネコのようだった」
「いつから地球に?」
「彼は墜ちてきたんだ——」
「墜ちてきた?——どこから」
 わたしは頭を抱えた。「空から、宇宙からさ——それは千九百六十二年に」
「彼はなぜ音楽をはじめたんだ? それもクラシックや上品なものでなしにロックミュージックなんて」
「それがいちばん簡単だったんだ。そう、——『冴えたやり方』だったんだ」

 目にコンタクトをはめ、スタナーのように手袋をはめたデジーが見たものは気が狂ったようなロックンロールバンドだった。幸い、デジーは冴えた容貌に容姿をもっていた。肌は少し赤みがかった白だったが、それは彼を異星人に見せるにはちょうどよかった。
 絶頂期のデジーをつくり出したのはデジー本人ではない。彼のマネージャーとプロモーターだった。
 もともとガリガリに痩せた大学出のマネージャーに魚とイモ、そしてウナギのパイで驚異的に肥え太ったプロモーターはデジーが地球人ではないことを知らなかった。デジーを最初に見つけたのはプロモーターだった。彼はデジーにサイケデリックに変容するステージライトのコントローラーを見せられたのだ。デジーがいちばん苦労したことは、自分たちの技術ではひとつの石でたりるロジックを、地球に溢れるゴミの山から見つけなければならないことだった。デジーが地球にきて最初に気がついたこと。それはこうである——『なんて資源のない国なんだ』

 デジーはわたしに語ってくれた。
「ワタシが地球に墜ちてきたのは宇宙船が故障したためだ。ワタシは防護服を来て宇宙に放り出された。ワタシは衛星になりかけた。ぐるぐると地球を回る衛星に。なぜワタシが地球に墜ちてくることができたか——それはソ連の衛星に出会ったためさ。ワタシは衛星を強くけりつけ、自分に反動をつけた。ぼくは加速することができた。自分で先に進むことができた。そして——真下に地球があったんだ。防護服はぼろぼろになりながら、ワタシを大気圏の衝突から守ってくれた。
 幸運だと思うことは、小さなイングランドに墜ちたことだ。他にももっと広大な土地を持つ国はいっぱいあるのに——ワタシが墜ちたところは小さな英国だったんだ。
 そう、ワタシにとっての幸運は英国に墜ちたことだ。でも——ただそれだけなんだ」
 食事は口にあったのかい?——わたしはデジーに訊いた。
「問題ないよ——ただ食べ方がわからなかったな。水の飲み方もそう——よく口元からこぼしていたな」
 いちばん疲れたのは人間さ。それもある特定の種類の——特定というのは『仕事』って意味でね。そこには必ずディンギ——お金が絡んでくる。ディンギというのはロシア語さ。昔はやった映画じゃ、主人公の仲間どうしがロシア語で話すんだ。『ヤーブル』とか『ハラショー』とかね。
 とにかくディンギにはまいったよ。こりごりだね。たいがいのプロダクションやプロモーターはバンドに払うお金をけちるんだ。そのたびにバンドは駄々をこねる。そしてストライキにサボタージュ——終いにはまだ十三回のステージがあるってのに夜逃げみたいにどっかにいっちまう。
 ワタシはときどきバンドを組んでやろうと思った。そうしたらディンギは気にしなくていいからね——ワタシが公平にくばればいいことだから。でも周りが引き止めるのさ——『そんなことじゃきみのアーティストとしての自由がせまくなってしまうしきみの名前を出さなきゃバンドは売れない。それより——きみはバンドじゃやっていけない』
 なぜワタシがバンドをやっていけない?——なぜは訊いた。そうしたらこう教えてくれた——『きみにはバンドの連中に飯を食わせることはできないよ』——てね。バンドを組むってのはそんなに大変なことなのかい?」
 それはわたしがデジーに訊くべき質問だった。だが彼は疲れ果てているようだった。
 デジーはわたしに世界には様々なミュージックがあるといった。デジーはデジーなりに勉強をしてきたようだった。
「ワタシはロックミュージックだけを創ろうとは思っちゃいなかった。世界をツアーすると、いろいろなミュージックがあることに気がついた。たとえば今モーガンのいるニッポンなんかもそうさ——古いミュージックなんかがいっぱいあるだろう? ワタシはそうしたものから得るものがあると思っている。でもたいがいにおいてそうしたミュージックや歌は建て前に堕落しきっている。たぶんあらゆる文化において、すべては建て前になってしまっているんだ。そうしたミュージックや文化はなんのために残されているのか?——『建て前』に堕落してまでも——それは国を紹介するためさ——ただそれだけのために文化は保存されているんだ」
 そうでもない——わたしはそうデジーにいった。それを継承する人々はいる。彼らは尊敬さえしている。
「そうだろうか?——継承しようとする人が仮に存在するとしても彼らにできることは、『失くさないこと』または『残すこと』——そんなものだ。生まれ続ける文化には最初から未来なんてない。文化は生まれたときから『記録』でしかない。生まれたときにはすでに最終形態が決められているんだ」
 デジーは悲しそうな目を見せた。わたしが口に出すのをためらった言葉をデジー自身がいってくれた。
「ワタシが創造してきたミュージックは文化だったかもしれない。けれどしょせんは記録なんだ」

♪けっこう心配する心

 どこかにあるだろう歌は遠くにただよっている。
 わたしは彼女の声が聴きたくなった——それはナディアの声である。彼女はミュージックを表現する女性のひとりだった。髪の毛をショートできめた彼女の長い腕は、ステージで踊るバリダンスのためにあつらわれたようだった。——彼女はまちがいなく、文化を継承しつつ、それを記録に埋もれさせてはいなかった。
 彼女がわたしのために——いや、わたしのためにではない、それはたまたまわたしがその場にいあわせただけのことだった——こしらえてくれたスープ付きのヌードルは、ニッポンで食べたラーメンよりうまかった。いくらまずい食事でもうまいと感じるものがある——それは愛情である——
 ああ、はずかしい!

 月の上で、トミーは何をしているのだろう——それはリョーコがいいだしたことだった。「彼は生きているはずなの。きっと」
「でもリョーコ彼はもうここにはいない。この地上には。新聞を見たよ。彼はガスを吸ってしまったんだろう」スタナーがそういった。
 わたしには別段、トミーのことについて話す気はなかった。トミーとはリョーコといったコンサートの会場に浮かんだスクリーンに映しだされていた男である。
 彼はもともとバンドマンだったらしい。インクの色が手につく新聞の写真で見た彼は異星人のようだった。黄色い頭をしていた。粉の吹き出した顔は、ファンデーションでおおわれていた。わたしはスタナーに訊いた——彼はいったいどんな歌を歌っていたんだ?
「悪いけれどわからないな。きっときみの方がわかるはずだ。ボクにはニッポン語がわからない」
 わたしは首をひねった。トミーの歌は聴いたことがなかった。スタナーは当てずっぽうでいった。「たぶんロックミュージックらしい歌じゃないか?」
 彼の歌は愛と自由——そうフリーダム? のためなの——かわいいリョーコはそう教えてくれた。彼女は母親の影響か、英語をしゃべることができた。言葉でコミュニケーションができるというのは、リョーコとつきあう大きな理由のひとつである。しかしリョーコはそれ以上のものをもっていた。彼女は純真なのだ。

 リョーコの母、サワコはニッポン人だった。彼女は大学で社会学を専攻したのち、新聞社に入社した。入社するとニューヨークの支局に配置された。そこは彼女の他にカメラマンが一人と支局長がいるだけの場所だった。彼女は、自らの手で時間を放棄した前任者の後釜だった。彼女が支局に配置されて、最初に行った仕事は、前任者の机の整理だったという。
 彼女の容姿は割に整った方だった。そしてニッポン人のなかでは背が高い方だった。まちがいなくわたしは彼女のことをきれいだというだろう。スタナーもそういってくれた。彼女は四十三歳になるころでもじゅうぶんにきれいといえた。
 彼女は今、バーを経営している。
 そのバーは『ピーナバー』といった。
 そこに集まる人々は何らかの心配事を持っていた——わたしの憶測だろうか?

♪トミーの犯した暴力のひとつ

 トミーは月面で寝ていた。愛する稲妻ギターは横に転がっていた。ここに来たばかりのとき、彼は独り言を練りかえしていたらしい——
「つまんねえな」
「ほんとつまんねえな」
「腹減った」
 トミーはバンドの中で二番目に人気があった。彼はどちらかといえば不健康な男だったが、グルービーのほとんどが彼の持つ病的な雰囲気にひかれていたようだ。いちばん人気があったのはボーカルを担当していた男で、彼は今、ソロシンガーとして働いていた。わたしは彼の最近の歌を聴いたことがある。それは愛の歌だった。彼はもう化粧をしていない。

 トミーの稲妻ギターには血がついていた。その血はトミーたちが狭いライブハウスで演奏をしていたとき、ステージに飛び込んできたグルービーをギターで叩いたときに付着したものだった。それを拭き取ったとしても、警察が化学試験を行ったなら、まちがいなく反応を示すだろう。それでもわたしはトミーに訊いた——なぜ拭き取らないんだ。
「めんどくさい」
「よく警察につかまらなかったね」
「おれは悪いことしてないもん。正当防衛さ——」
「まあ、その男が文句をいわなかったらかまわないが」
「男? いや女さ」
「きみは女をなぐっちまったのか?」
「ああ、そうだよ。でも誰だかわからなかったんだよ。かわいそうなことをしたな」
「ああ、ほんとうに。顔に傷でもつけたら——」
「彼女は訴えないよ。殴られてでも、乱暴されてでもおれたちが好きなのさ」
「それでも——」
「気にするなよ——一度や二度のことじゃない」
 彼の稲妻ギターはなぜ『稲妻』かというと、ツノのような角がたくさんついていて、それが稲妻を絵に描いたように見えるからだ。銀色にペイントされたギターはトミーのトレードマークだった。それは彼の病的な顔——いつも消えることのない目の隈とまぶたに浮かび出た血管によく似合っていた。彼の老人のような節くれだった細長い指が稲妻ギターをかき鳴らすとき、そのサウンドに多くのグルービーが叫び声で呼応した。
「きみのギターはそんなに人を傷つけてきたのか。それはサウンドを、それからミュージックを奏でるためのものじゃないのか?」
 トミーはわたしの問いに対して、わたしの国で使われる四文字言葉で応じた。そのあと彼は少々照れくさそうにいった——「ほんとうのところはそうなんだ。たしかにこれはミュージックのためのものさ。おれはミュージックをつくらなければならなかった」
「つくっていたじゃないか」
「でもあれはミュージックじゃない。あれは場つなぎさ——その場にごし。あしたの食事のため」
「水なら公園でも飲める。しかし水だけじゃ生きていけないな」
「そのとおりさ——おれ行き詰まっちまったんだ」
 わたしはそれがほんとうの理由じゃないと感じた。トミーはわりと真面目な男に思えたのだ。

 トミーが殴った女の子の顔には、頬から耳の上にかけて傷が残った。自分の両親にさえ叩かれたことのない肉体に傷を負ったのだ。彼女はまだ十六歳だった。それでも彼女はロックンロールに裏切られたとは思っていなかった——彼女の名前はタミヨといった。
 ところが彼女はトミーのいなくなったことを知らせる新聞につばを吐いた——「この空っぽ野郎!」

♪デジーに会うためには?

 わたしはデジーと話さなければならなかった。そしてデジーに会うために、わたしは少々の苦労をしなくてはならなかった。それは会社を休むということである。休みは人間が得たい自由の一つに過ぎなかった。

【続く】